2026.06.20

東京に行くことにした。たった1日の日帰りだけど。わたしにとっては大きな決断。これから先、しばらくは、丸一日、早朝から夜遅くまで自由に時間を自分のために使える機会はきっとやってこないだろうという予感みたいなものがある。多分、その予感は外れるのだろうが。・・・景色を見てみたいと思った。わたしが、日本語タイプラオターの活字を手に持ってスタンプのように文字を押し、一枚しかない消しゴム版画に言葉を添えた時から、見よう見まねで始めた活版印刷が、世界の活版印刷工房、日本の活版印刷の世界でどんな姿をしているのだろうかと。その景色を見てみたい。それは、宇宙から見た地球に住む自分自身の姿ほどに小さいのだろうが、認識できるほどに、その場所では見ることができる。そしてそれを見て感じたことを素直に自分の中で咀嚼したいと思う。ワクワクするけど、そんなに楽観的ではない。どう展示で紹介されているかということに興味があるのではない。どこにでもある点が、どんな点に見えるのか。どこにでもあるけれど、自分の点だとわかる点がどんな点に見えるのか。その景色を楽しんでみてみたい。
東京へ。この前東京に来たのはいつだったろうか。昨年の3月末に早稲田の大学図書館に来て以来か。久しぶりでもない。新幹線の車中で、ほんのうたさんの詩集を読む。それから詩の草稿らしきものを一篇書く。駅を降り、地下鉄で市ヶ谷へ。また駅を降りて(登って)進む。遠くにDNPと書いた文字が掲げられている高いビルが見えてくる。市谷の杜 本と活字館に来るのは3回目。開館直後(だったろうか)のコロナ禍で1回。書籍用紙の展示で1回。2回に上がり、展示を見る。どこの工房も、活版印刷を行うことで設備や資材や人を維持してゆくことが難しくなっていて、一度は閉鎖したとところが多く、それでも有志が集まり企業とは違う形で運営を行い、再出発をしている例が多い。それか個人がやっているところか。展示されている組版と印刷物をまじまじと見る。どれも印刷がとても綺麗だ。いわゆるカスレとか凹凸とかが一切ない。とても綺麗な印刷だ。わたしにはとてもできないと思いながら眺めてしまう。今回の展示はいわゆる頁物の印刷を行なっている活版印刷の印刷所もしくは工房と活字を鋳造している会社の紹介が中心で、日本の活版印刷は6ヶ所の工房や施設が紹介されている。その中の一つに毛萱街道活版印刷製本所があるのだが、正直、後ろめたい。わたしが自薦したり選んだわけでもないので、罪悪感まではないのだが、そんな大それた営みではないと自信をもって言える。そういう意味では誇らしい。もう少し、積極的にみんなが集まれるものを作っていいかもという気持ちが湧いてくる。展示を身終えて、ショップの担当の方に見本の双紙をお渡しする。ショップで、製本工房リブール綴じ糸(#20、#30、50)と花布、そして書籍アダム・スミス、訳・村上彩『本作り500年の歴史 本の印刷からZINEカルチャーまで』を購入する。そしてこの展示(「ワールドワイド活版印刷」)のポスターも。一番欲しかったルーペ売り切れて買えなかった。それから1階のカフェでいただいたチケットでコーヒーをいただく。次に、用賀に向かう。Googleマップにお願いして世田谷美術館までの道案内をしてもらったのだが、どうも回線が悪いのか、わたしの設定が悪いのか、どんどんと美術館から遠のいてしまっているような気がする。雨も本格的に降り始め、これはまずいと思い、信号待ちをしていた方に道を尋ねると、彼はスマホの位置情報を見て答えてくれる。駅から歩いて17分かかるところが、この場所で30分以上かかると言われる。遠いですよと言われ、ガクンと疲れるが、ここで諦めては午後が無駄になると思い、再び淡々と歩く。するとようやく知っている道に出会う。あれはもう30年ほど前だろうか、詩誌 回生で主催した詩展という展示で知り合った画家鈴木智さんの遺作展を観に来て以来だろう。やっと美術館に辿り着き、「田中信太郎 意味から遠く離れて」展を見る。だいぶ歩いてので、帰りの新幹線を1時間ずらす。スマホのバッテリーが3%ほどになり、予約の変更ができるかどうかヒヤヒヤするも、変更ができた。ほっと安心する。荷物を持って展示室に入ろうとしたら、受付の方がお荷物預かりましょうかと親切に声がけしてくれる。そこで荷物をお願いして、ついでだからと思い学芸員の野田さんはいますかと尋ねる。野田さんは今日はお休みですとの答え。持ってきた「あめのちかいせい」の最新号をお渡ししていただくように名刺と共に受付の方にお願いする。展示は、とてもすっきりとしていた。意味を見出しやすい展示物に興味がゆくが、それすらも意味を見出しにくい展示があって、それだからこそ見出しやすくなるのだろうと思った。和紙に鉱物で図形を示した作品がとても良かった。ショップで奈良の葛餅を土産に買う。世田谷に来てどうして奈良となる。地下の食堂でランチを食べる。雨の中また歩いて帰る。東京駅で土産を買う。
一部始終が終わる。
